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「アジア式組織運営」を考える
今回のニュースレターでは「人を育てる」という事について考えてみたいと思います。語りつくされたテーマかもしれませんが、一方で奥深いテーマでもあります。人事コンサルティングファームである弊社に寄せられる相談の殆どはこのテーマに集約されると言っても良いかもしれません。「どうやったら人が育つのか」「人を育てられる上司をどう作るか」。多くの会社はこのテーマに頭を悩ませています。

「育てる側」の気持ちに気づくには時間がかかる
話は変わりますが、私には71歳になる父親と66歳になる母親がおり、幸いなことに元気に日本で暮らしています。私は離れてタイに住んでいるので、いつもSNSなどで孫の写真を見るのを楽しみにしてくれています。今でこそ両親と良好な関係を続けられていますが、自分が若い頃はそうでもありませんでした。自分の行動に口出しする親のことを面倒くさく思った時期もあります。
「親が子を思う気持ち」が理解できるようになったのは、自分が成人して暫くしてからだったと思います。大人になり、社会に出てお金を稼ぐようになると、「自分で生計を立てることがいかに大変なのか」「当たり前のように食事や生活の面倒を見てもらえることがどれだけ尊いことか」が徐々にわかるようになってきました。
「親の気持ち、子知らず」という言葉が日本語には存在します。ある一定のタイミングまでは、なかなか育てる側の気持ちはわからないものです。上司と部下の関係もそれに似たところがあるのでは無いでしょうか。親が子供の成⻑に責任があるように、上司は部下に対して責任があります。しかし、部下は上司に文句を言うことはできても、上司は部下に文句を言うことはできません。すべてを受け止めて、部下の成⻑を信じて愛を注ぐだけの懐の深さが求められます。
そうなるためには一定の年齢と、精神的な成熟が必要なようです。アイデンティティ心理学の生みの親のエリクソンは、ライフサイクル理論というものを用いてこれを説明しました。彼によれば、およそ35歳くらいからGenerativity (世代性、生殖性)というステージが訪れるそうです。このステージでは子を持つ持たないにかかわらず、次の世代に何かを残したい、と思うようになると言います。
その前の20代には、自らのアイデンティティを確立するステージがあります。もちろん個人差はあるでしょうが、 自己の確立がままならない人に、人を育てることは難しいでしょう。育てる側の上司が、そうした成熟度のステージにあるのかどうか。そんな目で見てみることも必要かもしれません。
「信じる」ことが人を育てる=ピグマリオン効果
もう少し具体的に、人を育てるプロセスに踏み込んでみましょう。あなたの職場に若いメンバーが入ってきたとします。上司、または先輩であるあなたがまずするべきことは何でしょうか。
最も基本的で、かつ本質的な行為は、その人の「可能性を信じる」事です。まだその人は活躍をする前かもしれませんが、「その人がどんな貢献をしてくれるのか」に期待してあげることです。例えるならば、まだ種や芽の状態である植物に対して、きっと素晴らしい花が咲くだろう、と期待してあげることです。
ピグマリオン効果という、教育心理学における有名な理論があります。教師が期待をした生徒と、しなかった生徒に は、元々の成績が同じだったにもかかわらず、その後の成績に差が見られたという実験です。周囲がどれだけの期待を持ってその人のことを見てあげるかは本人のモチベーションに大きな影響があります。その反対をゴーレム効果と呼びます。本当は活躍できるポテンシャルがあるかもしれないのに、周囲からの否定的な言動によってパフォーマンスが発揮されなくなってしまう事を指します。
可能性を信じることは、甘やかすこととは違います。人の育成には周囲からのフィードバックは必要不可欠で、時に厳しいフィードバックもあってしかるべきです。しかし、フィードバックは常に期待を込めたものにすべきです。「●●が出来ていない」と課題を述べるだけでなく、「一方で〇〇は出来ている」と⻑所にも目を向ける。ミスや失敗を指摘しつつも、「次は改善しよう」と未来志向で話す、といった工夫が必要です。
こうした伝え方はテクニカルなものに見えますが、心の中で本当にそう思っていないと、なかなか出来るものではありません。部下にフィードバックするときは、怒りや勢いに任せて行うのではなく、 深呼吸をひとつして、その人のことを冷静に思ってから行うことが必要です。たった一言の心無いメッセージで「自分はダメだ」という自己認識を本人が持ってしまうということは少なくありません。

どんな「助け(HELPING)」が必要なのか?を想像し問いかける
あなたのチームにいる若年者は、当然ながらあなたよりも経験や知識が不足しています。それを提供 するのが育成役であるあなたの役割ですが、ここで大切なのは、「相手が何を求めているか?」を一生懸命に想像することです。
なぜなら、知識やスキルが足りていない若年者は、「何が自分に足りていないか」を往々にして認識できないからです。ですから、「わからない事があったらいつでも言ってね」というサポートは一見すると親切ですが、それが本当の助けにならないことがあります。「何がわからないかがわからない」 状態の人は、「●●がわかりません」という事すら表現できない事もあるのです。
著名な経営学者E・シャインは「Helping」という書籍の中で、「支援を求める人は気まずい思いをしているという事を常に思い出そう」と言っています。その上で、どんな支援が必要なのかを問いかけることを勧めています。また、シャイン氏は「効果的な支援は純粋な問いかけとともに始まる」とも言っています。純粋な問いかけとは、自分の憶測や先入観を捨てて、支援を受ける側を理解しようとする試みです。相手の状況を本当の意味で知るためには、問いかけるしかない。これはどんな人間 関係でも言えることかもしれません。
まとめると、「助ける」とは「相手が助けを求めてきたら助ける」という事ではありません。相手が どんな助けを求めているのかを自分から問いかけること。時として、その問いかけ自体が助けとなることも珍しい事ではありません。

その人との出会いに感謝する
最後に。
上司、部下の関係に悩んだら、こんなことを自分に問いかけてみても良いかもしれません。
「その人に初めて出会った時にどんなことを思ったか?」
「自分の人生の中にその人が現れたのには、どんな意味があるのか?」
「その人が、今後幸せな人生を送るために自分が力になれるとしたら、それはどんなことだろうか?」
上司と部下とは、あくまで仕事上の人間関係です。しかし同時に、上司も部下も、互いに一人の人間であり、数ある会社の中で、たまたま偶然が結び付けた関係です。そんな不思議な出会いに感謝をしてみては如何でしょうか。
哲学者M・Buberが提唱した考え方に「我・汝関係(Ich-Du)」というものがあります。人間関係を単なる利害関係や雇用関係とだけ捉えるのではなく、その関係に、双方の人生にとっての意味を見出 すという見方です。その反対を「我・それ関係(Ich-Es)」と呼びます。人間関係は何かの手段に過 ぎないという考え方です。
企業からすれば、人材が辞めてもまた新しい人は採用できます。そういう意味では人材は企業活動の一つの手段かもしれません。しかし、目の前の人は、ほかに変わりのいない一人の人間ですし、新し い人は辞めてしまった人とは別の人です。
辞めてしまった人の人生はこれからも続いていきますし、その人とあなたが人生の一定期間を一緒に 過ごしたことは、今後のあなたの人生にも何らかの意味を持つことでしょう。⻑い時間が経ってから、「あの時もっとこうすればよかったな」と思う事も少なくありません。
人生とは⻑いようでいて短いものです。その中で、一つの場所でたまたま一緒に仕事をするというのは決して当たり前のことではありません。そんな関係に感謝をしてみるというのもまた、目の前の人との接し方に変化を与え、その人の成⻑を支援することに役立つかもしれません。
そんなことを提案して今回の文章を終わりたいと思います。

第4次産業革命×IOTの時代を勝ち抜くための思考法
AI SEMINAR REPORT:著者: 大前瞳
変化の激しい環境下、予測不可能な環境の中で将来を想像し「創造する考え方」とはどのような考え方をするのか、アイデア創出のために必要な頭の使い方とはどのようなものなのか。変化というものは「まだまだ来ないな」という感覚が一定期間続き、一気に進む時がやってきます。遅くない未来に一気に社会の変革が起こる、その時に自分はどう在れるのか。 タイでの日常業務から離れていつもと異なる頭の使い方をしてみて未来を考えてみる、そんな時間を体感頂けたと思っています。
初めのパートでは、第4次産業革命により、実際に社会の中で起こっている変化を学びました。IoTやビッグデータ、ドローンなどが普及することでどのように社会の構造転換がおき生活が変わりつつあるのかをシェア。羽田空港のチェックインカウンターの無人化、AIによる翻訳機能や同時通訳機能の進化、カスタマーサービスのAI化、中国での電子決済の浸透など、実際にどんな変化が起きているかを知っていきます。
その後に「創造する考え方」「アイデア創出のために必要な思考回路」とはどのようなものかを学び、演習をかさねました。創造するために必要な頭の使い方であるアナロジー思考と従来の問題解決思考・ 論理的思考との違いなど演習を重ねることで実感し、アナロジー思考によって誕生しているビジネス、ビジネスモデルについても簡単に学びを深めました。 数々の考える機会の少ない問いに頭をひねりながら、 思考しディスカッションしていきます。
最後はこのような変化を踏まえた10年後の未来について考えるというパートでワークショップを終えました。10年後には何が誕生し、当たり前になっている一方で何が消えているのかを考えました。
私たちAsian Identityが提供させていただいているワークショップの中で問題解決力や論理的思考力を鍛える研修についてお問い合わせを頂く機会、ワークショップを実施する機会が増えています。今頂いているご要望にお応えするのはもちろんですが、今世界で起きているデジタル革命が社会や生活に及ぼす影響は大きく、変化の中で本当に必要とされている思考力とは何か、こういった予測不可能な未来の中で何かを想像するための思考力というのも大切なのではないかということから、 今回のワークショップをさせていただきました。
今後も何かしらの形で続けていけたらと考えています。
ご参加頂いた皆様、有難うございました。
参加者の方のコメント:一部抜粋
‘- タイ駐在中はあまり考える機会の少ないことで非常に参考になった。
– 自動車の変革が予想よりも早く来ることを意識してこれからの業務に取り組みたい。
– アナロジー思考により、脳の体操と思考力、発想力が鍛えられると感じた。
– 思考、発想方法において多々気づきを得た。
– 日々の業務から意識して離れて日常の延⻑線上ではない考え方をする訓練をしていきたい。
– Maas(Mobility as a Service)などの近い将来起こりうる話は聞いていてワクワクした。

中村 勝裕(NAKAMURA KATSUHIRO)
CEO & Founder, Asian Identity Co., Ltd.
“バンコクを起点にアジアに特化した人事・コンサルティングファームAsian Identityを経営。
ネスレ、リンク & モチベーション、グロービスを経て現職。
現在はタイを拠点としながら「多様性の調和」をミッションに掲げ、アジア各国でのコンサルティングや講演活動を手がける。
バンコクにおいてタイ人向けビジネス漫画「Su Su Pim! (がんばれピム!)」を執筆、販売。
アジア流のリーダーシップを提唱する『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』(WAVE出版)を出版。”
– Certified Facilitator of LEGO® SERIOUS PLAY®
– Completed ORSC™ – Organization and Relationship System Coaching Practical Application Course
– Certified Facilitator of Hofstede Insight Organizational Culture (วัฒนธรรมองค์กร)
– CoachingOurselves Facilitator
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