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AI NEWSLETTER Vol.51 「採用をうまく行かせるためにするべき、たった一つのこととは?」

2022年6月15日
中村 勝裕中村 勝裕

 

AIニュースレター、51号です。

今回のテーマは「採用」です。

コロナ以降、人材の流動化が進んでいますが「なかなか人が採れない」という状況をしばしば耳にします。タイの人材マーケットは常に「売り手市場」にありますから、単に募集を出していて良い人が採れるほど簡単ではありません。特に会社を牽引してくれるような優秀人材は他社との激しい奪い合いになります。ではどのような考え方で臨めばよいのでしょうか。

「採用をうまく行かせるためにするべき、たった一つのこととは?」

「給与水準が低いから人が採れない」は本当か?

他社に採用負けしてしまう理由の一つに「給与」が良く上げられます。確かにそういう面もあるでしょう。特に長らく給与制度や評価制度を見直していないうちに、気が付いたら周囲の企業に比べて給与が低くなってしまっていたということはしばしばあります。そういう場合は給与水準の是正は避けて通れません。

しかし、敢えて言えば給与は一つの要素にすぎません。恐らくこれを読んでいる皆さん自身も、「給与だけで会社を選んだ」と言う方は多くないのではないでしょうか。特に優秀人材は、給与以外の要素を加味して働く先を選ぶ傾向にあります。

それを考えるために、企業の「魅力要因の4つのP」という考えを紹介します。人が組織を選ぶ際に以下の4つの要素を考慮するというものです。

 

 

一つ目は「Philosophy」、つまり「理念や目的の魅力」です。この会社が目指していること、ビジョン、などに惹かれて人は組織を選びます。小さな会社でもスタートアップのような「今までにないものを生み出そう」という会社には人はワクワクして惹きつけられます。大企業でも、社会に対して強いメッセージを発信している会社は、優秀な方を惹きつけます。

二つ目は「Profession」、これは「仕事そのものの魅力」です。仕事を通じてお客様を笑顔にできる、技術が身につく、高度なスキルを要求されるが成長できる、そうした要素です。高い技術力や品質を誇るメーカーなどは、普段はあまり意識しなくても、こうした魅力が組織にあるはずです。

三つめは「People」、つまり「人の魅力」です。前向きな人が揃っていて、一緒にいて楽しい、職場が明るくて会社に来るのが楽しい。そういうカルチャーを作ることができると大きな魅力となります。日本もタイも、「職場」は仕事をするだけではなく「仲間と過ごす場所」という価値観がありますので、この要素を重視する人は多いです。

四つ目は「Privilege」、「特権や待遇の魅力」です。給与やボーナスが高い、福利厚生がしっかりしている、教育制度が整っている、誰もが知っているブランド企業である、などです。こうした要素を備えている企業はかなり採用がしやすいことは間違いないでしょう。

 

全部を満たそうとせず、「自社が強い部分はどこか」を定める

皆さんの会社が業界トップのポジションにあるのであれば、これら「4つのすべてを満たす」という戦い方が出来ると思います。高い報酬水準を提示し、なおかつ社内の仕組みに投資することによってそれぞれの魅力を満たすことができるでしょう。
しかし、大多数の企業にとってはそうはいかず、「負けている部分もあれば、勝っている部分もある」という状態でしょう。その中で「この要素ならうちは負けない」というポイントを目立たせて訴求すること。それが採用ブランディングRecruiting Branding)です。

不思議なもので、「当社は全部が揃っている」と言われるよりも「ここは負けているが、ここなら負けない」と言われた方がストーリーとして魅力的に響くこともあります。なので、弱者の戦略ともいえますが、トップ企業に比べて劣っているからといって必ずしも採用で負けてしまうわけではありません。そこが採用競争の面白いところです。

例えば当社のようにコンサルティング業界でビジネスをしている会社は、欧米のコンサルファームと人材の奪い合いになり、報酬水準や得られる情報などではかなり厳しい戦いとなります。しかしそこで勝負しても勝てませんので、その状況を逆手にとって、大手にはない良さを訴求するというのが差別化の戦略になります。

当社はタイで生まれた「アジア専門のコンサル会社」ですから、欧米式ではない今までにないやり方を作っていくというビジョン(Philosophy)や、小さな会社だからこそ若いうちから仕事を任せられるProfession、オープンでフランクな風土というPeople、という点を意識して訴求をしています。

誤解なきようにしたいのは、報酬が重要ではないと言っているわけではありません。報酬が目立って低いと、それは他の要素でカバーできませんので、「まずまず」の状態にはする必要があります。ただし、報酬は「衛生要因」などと言われるように、「低いと困るが、高いからと言ってそれだけでは満足しない」という特徴を持っています。ですので、致命的な弱点にならない程度に補強しておくというのがセオリーです。

皆さんの会社を思い浮かべながらこの4つの要素を眺めてみたときに、「強み」と言える部分はどこでしょうか。それが御社の「採用魅力」となります。是非そこを言語化してみてください。

 

面接の中で採用魅力をしっかりプレゼンテーションする

自社の採用魅力が固まったら、それをしっかりと候補者に伝えましょう。お勧めは、面接の冒頭で「5分間だけプレゼンテーションする」ことです。

面接で会社紹介をどの程度していますか?と聞くと、案外していない会社が多いように思います。一方的に面接官が質問をして、最後に「何か質問はありますか?」と聞くと会社について聞かれるのでそこでようやく説明をする、という流れになりがちですが、それだと自社の魅力が十分に伝わりません。

「先に簡単に会社紹介をさせて頂きます」といって、短くコンパクトに魅力を伝えましょう。通り一遍の事業概要や製品概要をするのではなく、先ほどの「採用の魅力要因」を意識しながら、「当社に来ることで何が満たせるのか」を伝えることが大事です。そこを正直に、かつ自信を持って伝えることができると、会社の魅力度はぐっと上がります。中小企業であれば社長や役員などが自らこれをやるとさらにパワフルになるでしょう。

こういう話をすると、「面接官を務める人材が、魅力的に会社を紹介できる気がしない」という反応もいただきます。確かにそれが現実なのだと思いますが、そこにこそ人材が採用できない原因があると思っています。逆に言うと、それを解決することで良い採用活動ができるようになります。

経営と人事が主導となって「自社の採用魅力の言語化」を行い、それをもとに「面接官のトレーニング」をしましょう。面接官が自社の魅力を語ることができれば、採用のみならず社内のマネジメントにも大きなプラス作用がある、効果的な施策となります。

 

社内の「エンゲージメント」(組織への関与・愛着)を作ることにも役立つ

既にお分かりだと思いますが、この「4つのP」の重要性は採用時のみならず、既存人材をリテンションするときも変わりません。もし皆さんの会社から人材が辞めているのであれば、どのPを強みとして定着させるのかが不透明になっているかもしれません。

新しい人を採用するのと同じくらい、「今いる優秀な方に残ってもらう」ことはとても重要です。4つのPに目を向けながら、優先順位を明確にして社内の人事施策を作っていくことも改めて意識しましょう。

昨今「エンゲージメント」というテーマが注目されています。エンゲージメントはぴったりした訳を見つけるのが難しいですが、「組織への関与や愛着」といった意味です。昔からある「従業員満足」という言葉は、従業員が会社に要求をして、会社が社員を満足させるような響きがあります。エンゲージメントはもう一歩踏み込んで、「会社と個人が相互の期待が一致し、強く結びつく」状態を作ることを目指します。

そのために、従業員アンケートなどを通じて「従業員はこれを期待している」ということを正しく把握し、それを経営方針として重点的に強化していく。その際に、全ては実現できませんので、「優先順位を落とすものは、落とす」と正直に伝える。そのようなやり取りによって、会社と従業員の期待が近づいていく。そうした双方向の経営がこれまで以上に求められているということを最後に付け加えておきます。

今回のニュースレターは以上です。お読みいただきありがとうございました!

 

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中村 勝裕

中村 勝裕(NAKAMURA KATSUHIRO)
CEO & Founder, Asian Identity Co., Ltd.

Profile

“バンコクを起点にアジアに特化した人事・コンサルティングファームAsian Identityを経営。
ネスレ、リンク & モチベーション、グロービスを経て現職。
現在はタイを拠点としながら「多様性の調和」をミッションに掲げ、アジア各国でのコンサルティングや講演活動を手がける。
バンコクにおいてタイ人向けビジネス漫画「Su Su Pim! (がんばれピム!)」を執筆、販売。
アジア流のリーダーシップを提唱する『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』(WAVE出版)を出版。”

 

– Certified Facilitator of LEGO® SERIOUS PLAY®
– Completed ORSC™ – Organization and Relationship System Coaching Practical Application Course
– Certified Facilitator of Hofstede Insight Organizational Culture (วัฒนธรรมองค์กร)
– CoachingOurselves Facilitator