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AI NEWSLETTER Vol.54 「東洋的なリーダーシップについて考える①」

2023年6月12日
黒田るな子黒田るな子

AIニュースレター、54号です。

今号から、何回かのシリーズで「東洋的(=アジア的)なリーダーシップ」について考えていきたいと思います。

私たちの会社Asian Identityは、アジアの組織にはアジアに即したマネジメントスタイルがあると考えています。

それは、それぞれの国には異なる文化や言語があり、それを加味することなく世界統一のルールを持ち込んでもうまく行かないからです。

とりわけ、人の気持ちを取り扱う「人事」という領域においては、気を付けるべきことが多いといえます。人々の心理的な反応を考慮せずに世界標準のルールを当てはめてもうまく行かないことは、人事領域に関わる方であれば周知の事実でしょう。

 

「東洋的なリーダーシップについて考える①」

アジア地域の特徴とは?

それでは、アジア地域の特徴とは何でしょうか?もちろんアジアと言っても非常に広く多様ですから、簡単に言い表せるものではありません。しかし、大まかに西洋と東洋の特徴の違いを述べるとすれば、以下のような特徴があるとR・ニスベットという学者は述べました。

ヨーロッパ人の思考は、対象の動きは単純な規則によって理解可能である」

アジア人のとっての世界はより複雑であり、出来事を理解するためには、常に複雑に絡み合った多くの要因に思いを馳せる必要がある」

西洋的なアプローチは、ものごとを言語化し、分析し、法則化します。反対に、東洋の世界では曖昧なものを曖昧なまま捉え、言語化しすぎないというアプローチを取ってきたということが出来ます。

これは西洋医学の東洋医学の特徴の違いにも表れています。西洋医学は症状から病名を特定し、それを取り除くことで病気を解決します。一方で、東洋医学は体全体の気の流れや体質改善といったアプローチを取ることが多い。両者の「ものの見方」の違いを、ある意味で象徴している例と言えるのではないでしょうか。

 

世界は「主観」でできている

アジアの考え方の特徴は、「客観的事実」よりも「自分自身」に着眼するという点です。

インドで生まれた仏教においては、「苦しみは自分が作り出している」として、自分の中の煩悩を取り除くこと(=悟り)を目指しました。中国で生まれた道教は、敢えて自分自身は何もせず自然体でいることで、周囲と調和することが出来る「無為自然」という考えを解きました。

いずれも、ものごとの解決の糸口は「自分自身をコントロールすること」にあるとしたのです。

こうした姿勢は、現代の私たちにも役に立つ考え方だと思います。

皆さんの部下や同僚でなかなか動いてくれない人がいるとしましょう。その時に相手を「頑固な人だ」と決めつけるのは簡単です。実際に、その本人が問題を抱えていることもあるでしょう。

ですが、ほとんどの場合、相手を問題視していても状況は変わりません。自分自身のアプローチに改善できることは無いかを考えて、はたらきかけを工夫することで結果として相手は動いてくれるかもしれません。

 

リーダーが変われば組織は変わる

中国の孟子という人が、こんな言葉を残しています。

 

「至誠にして動かざる人、未だ之非ざるなり」

 

真心を尽くして接すれば、動かない人などいない、という意味です。

実際の職場には、本当に気難しい人もいるでしょうから、「動かない人はいない」というのは少々言いすぎだとは思います。ですが、この言葉は、「相手を動かない人だと決めつける前に、自分にできることは無いかをよく考えなさい」という意味の戒めだと思っています。

実際、私たちは「あの人は〇〇だ」という印象を一度持つと、その印象を固定化してしまうことがあります。いわゆる「バイアス」(固定観念)です。

そうしたバイアスが、相手に接する態度に出てしまうと、相手はそれを敏感に感じ取ります。そして相手は再び頑なになる。その態度を見て、自分は「やっぱり彼はダメだ」と判断してしまう…。私たちの人間関係は、そうしたバッドサイクル(悪循環)に陥りがちなのではないでしょうか。

変化のきっかけを持っているのは、あなた自身です。あなたがリーダーであれば、自分自身のものの見方を「ちょっと待てよ」と気を付けるようにすれば、バッドサイクルを食い止めることが出来ます。あるいは、組織のカルチャーを作る立場である人事スタッフに期待されていることも同じです。

つまりは、「リーダーの人間性が磨かれれば、組織は変わる」。そう考えて私たちは様々な方法でリーダー教育に取り組んでいます。

アジアには2000年以上も前から、リーダーが持っておくと役立つ考えが沢山蓄積されています。それらの考えから、いくつかを次回以降のニュースレターでも紹介していきたいと思います。

今回のニュースレターは以上です。お読みいただきありがとうございました!

 

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黒田るな子

黒田 るな子 (Lunako Kuroda)
Senior Consultant, Asian Identity

Profile

バンコクを起点にアジアに特化したコンサルティングファームAsian Identityにて、人事・組織コンサルティングを提供。 経済産業省、ノキア、NTTドコモ、米系ITベンチャーで勤務後、外資系コンサルティングファーム数社にて、戦略・組織・人事コンサルティ ングに従事。その後製薬会社の社内コンサルタントおよびエグゼクティブ・コーチとして、幹部候補者や次世代リーダー育成、マネジャー 約300名を軸とした組織開発プロジェクトをリード。コンサルタントとしては、組織変革、ビジョン策定、新任マネジャー育成、キャリア開 発、女性活躍等をテーマに幅広い業界の企業を支援。また、エグゼクティブ・コーチとしては、上場企業の社長から課長クラスまで、国内外のリーダー300名以上を支援。米国滞在計5年。

米ニューヨーク大学 エグゼクティブ・コーチング資格取得 米ニューヨーク大学 リーダーシップ・組織開発プログラム修了 各種パーソナリティアセスメント資格取得(Hogan, Lumina Spark, MBTI, KFALP, TalentQ)