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タイの組織力向上に共に奮闘する日本人とタイ人の人事担当者の方に対し、Asian Identityが取材。今回は豊田通商のグループ会社で国内最大級のエレクトロニクス商社、車載向けエレクトロニクス取り扱いでは世界最大の商社、ネクスティエレクトロニクスのタイ拠点、TOYOTA TSUSHO NEXTY ELECTRONICS (THAILAND)*(以下、NETH)にて人事を担当されている日本人の楠本さん、⻘木さん、タイ人のKayさんの3名にお話を伺いました。
タイ拠点の主な事業は車載用組み込みソフトウェアの開発事業、車載・⺠生向け電子部品の販売事業、IoT・モビリティーサービス向けコンテンツ開発および配信・データ解析プラットフォーム事業です。
同社は昨年から、組織において期待される行動(Expected Behavior 略称:EB)を言葉にしたものを可視化すべく動画制作プロジェクトを開始しました。例えば、「リーダーシップ&コミュニケーション」といった期待行動があるのですが、「どのように体現されるのが望ましいか」を動画として分かりやすく伝える取り組みです。この動画制作プロジェクトの背景や思いについて語って頂きました。
*2018年4月にToyota Tsusho Electronics (Thailand) とTOMEN ELECTRONICS (THAILAND) は事業統合し、TOYOTA TSUSHO NEXTY ELECTRONICS (THAILAND) に社名変更致しました
AI:簡単に自己紹介をお願いします。
楠本: 日本で人事担当者として採用関連、人事制度関連の仕事を一通り経験し、2007年からNETHにて人事部を担 当しており、今は、人事部門の責任者として組織改革を進めています。特に目標管理制度(MBO)の企画および実行、また採用スキームの構築などを行っています。20代のころに欧州でMBAを取得し、人のモチベーションの源泉や組織内での人の行動のメカニズムに興味を持ち、人事としてのキャリアを志しました。
⻘木: 現在は採用関連業務、従業員トレーニングの企画・実行に携わっています。以前、化学メーカーに勤めていたのですが、その頃から人を動かすメカニズムに興味を持っていました。それは製品を開発から販売するまでの一連のプロセスの中で人をどのように巻き込むかという事をマネジメントする立場で考えるものです。当時勤めながら、MBAに通い経営や人事に興味を持ち、今の仕事に携わっています。
KAY: 人事としてNETHに勤めて6年になります。今は、従業員トレーニングの企画や社内ファシリテーターとして仕事をしつつ、目標管理制度(MBO)の運用、給与・福利厚生関連業務と幅広い仕事をしています。学生の頃から人を巻き込んだ活動が好きで、学生の頃にある会社の人事部門でインターンを始めたところから、人事としてキャリアを歩んでいます。

AI:期待行動(EB)動画ムービー制作プロジェクトについて、かなり面白い取り組みかと思います。動画制作を決めた背景や難しかったことについて教えてください。
⻘木: 期待行動は例えば、「リーダーシップ&コミュニケーション」や「問題解決」など、11個あります。社内から「このような言葉だけでは、どのような行動が求められているか、具体的にイメージしにくい」という声がありました。また、文字だけでは人により、言葉のとらえ方にばらつきがありました。そのような状況の中、期待行動のイメージがしやすく、言葉の理解のズレを防ぐために動画を制作しようと思いつきました。11個ある期待行動を最も体現している人物を各部門のトップと相談して選定、選定された人物にインタビューを行い、期待行動を表すストーリーを語ってもらう、そんなプロジェクトです。
楠本: 「リーダーシップ」や「コミュニケーション」などは、とても抽象度が高いのです。具体的な行動に落としすぎても理解されにくくなる。例えば、エンジニアの「リーダーシップ」として求められる具体的な行動とコーポレート部門で働くスタッフの「リーダーシップ」として求められる行動は必ずしも同じではありません。抽象度を低くしつつ具体化しすぎない、この中間値を探ることに苦戦しました。このことについて社⻑と深くディスカッションし、言葉の中に含まれるべき重要な意味をキーワード化していきました。
例えば、期待行動の中にYin-Dee(インディー)というタイ語があります。「おもてなし」と定義しています。そのYin-Deeの中に内包すべきキーワードを社⻑と突き詰めました。自社におけるYin-Deeは何か、それは「相手の気持ちや考えを先読みして相手に驚きを与えたり、感謝されるようなことをする」ということと、「第一印象を大切にする。挨拶はしっかり、礼儀正しく」というものだ、とこのように11個の抽象度の高い概念にキーワードを考えていきました。ただ、「Yin-Deeしてください、おもてなししてください」では従業員の皆さんには通じません。お客さんや他者に対して「そこまでやってくれるんだ!」という驚きを実務の中でどれだけ生み出せているか、これが当社でのYin-Deeという期待行動なんです。このキーワードは、部門を超えて理解される自社の期待行動であり、当社の企業文化を受け継ぐものです。
KAY: 11名のインタビューに立ち合いましたが、今回選ばれた11名の方はご自身の経験を通じて得 られた信念を基にユニークなストーリーを語ることができているなぁと実感しました。

AI:心に残るスピーカーはいましたか?
⻘木: Yin-Dee(おもてなし)のストーリーを語ってくれた
人です。社内のサポート業務を行っている方なのですが、サポート業務ゆえ、あまり注目されるような目立った仕事ではありません。しかし、インタビューを通じて本人の仕事に対する姿勢や思いを知ることができました。「先読みして行動する、ここまでやってくれるのか!」を体現する。常に自分がどのような事をしてもらえたら嬉しいか、助かるかを考えて、社⻑のサイン一つもらうにしても、とても拘りを持って仕事をしている姿勢に学ぶ点が多かったです。
楠本: インタビューに参加してもらった皆さんのストーリーすべてが印象に残っていますが、その中でも特にTalents Fostering(才能・能力のある人を育てる)という期待行動について語ってくれた方が印象に残っています。よく人材育成は大切だと言われますが、なぜ育成することが大切なのかを理解している人は多くありません。それをこの方はストーリーの中で語ってくれました。自分の後任となる人を育成する。リーダーの仕事は自分の代わりを作ること、それが育成の意義であると言っていました。自分の後任を育成し、自分は次のステップに進む。世界規模の大手企業に勝つことができる強い組織をつくるために自分の後任を育て、組織を強くしていくことがリーダーの役割である。その考えは、自社において全ての管理職に備えてほしい考え方だと思います。だからそこに時間を使ってほしい、そう考えています。
KAY: Problem Solving(問題解決)という期待行動についてのストーリーを語ってくれた人です。仕事をする中で様々な問題に直面しますが、チーム全体で解決に向けて努力するという話がありました。リーダーである責任者より現場のことは若い社員の方が良く理解していると。だから若い社員の声や他の部門の声をよく聞くことは、問題解決という点ではとても重要だということを語ってくれました。上に立つ人間ほどオープンマインドでだれよりも声を聞く姿勢を持つ、そんなことを語ってくれましたね。実際、11名全員の話が印象的でした。
AI:期待行動(EB)動画制作プロジェクト後、社内でどんな変化がありましたか?
KAY: 動画を通じて自社内における期待行動を伝える過程で、11個の各項目を日常業務でどのようなアクションを行うかを考えてもらうトレーニングがあるのですが、以前よりもメンバーが書くアクションの内容がよりイメージに沿ったものになりました。
楠本: 目標管理制度(MBO)における目標設定の面談の中で、上司と部下が話し合って今期は11個の期待行動のうち、どれに焦点を当ててアクションを起こすか決めることを推奨しています。上司と部下の目標面談においても期待行動のアクション結果について振り返るため、頻繁に期待行動のキーワードが会話の中で聞かれます。徐々に組織への浸透が測れていると思います。
⻘木: 期待行動が組織の中で共通のキーワードになりつつあることを感じています。採用の基準も評価においても、これをベースに議論が進み、みんなが大切にすべきものとして認識が進んでいます。共通のキーワードがあると議論のスピードが速く、かつ一体感の醸成に繋がることを実感しています。

AI:期待行動(EB)の動画プロジェクトを通じてご自身は変化を実感していますか?
⻘木: これまで、自分自身としては理念やビジョン、行動指針など紙に書かれた言葉に意味を持たせるのは難しいと感じていました。でも動画、映像で可視化することで意味を持たせることができると気付けたのは大きかったです。
KAY: 私は社内のファシリテーター、トレーナーとして、この期待行動を従業員に理解してもらい、具体的なアクションを考えてもらうという活動をしています。私自身、この期待行動を理解しているつもりでいましたが、今回の動画プロジェクトで各スピーカーの話を聞いて視野が広がりました。「こんな捉え方があるんだ!」といったような。トレーニングでのエピソードの伝え方も変わりましたね。
楠本: ⻘木さんやKayさんはトレーニングを通じて現場の変化を感じていますが、私は現場の変化をそこまで感じておらず、まだまだだと思っています。映像をただ見てくださいというだけではなく、期待行動を高めるためにその映像を主体的に見ようする姿勢になってもらえるかという仕組みづくりにまだ課題があるかなと思っています。自分ごとと捉えて、体現できるようになる、その仕組みづくりに力を入れていきたいですね。
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